本日2011年3月18日(金)付けの朝日新聞朝刊の天声人語がとても心に残ったので、抜粋を載せておきます。
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震災で大きな被害を受けた岩手県は、宮沢賢治が生まれ暮らした土地でもある。賢治の思想の結晶の一つとされる名作『グスコーブドリの伝記』は、一人の若者が自らを犠牲にして人々の命の糧を守る話だ▼きびしい冷害で飢餓が迫る中、火山島を噴火させて気候を暖かくする計画が立てられる。だが、仕掛けのために島へ渡った者のうち最後の1人は島から逃げられない。若いブドリがその役を買って出る――。福島第一原発で続く必死の作業に、はからずも思い浮かんだ▼科学の創りだしたものが、生みの親の制御を超えて、のたうち、暴れる。人類の「滅び」の可能性を秘める核の、深刻きわまる暴走である。人体を脅かす放射能と戦い、恐怖を抑えて踏みとどまる原発従事者の、事なきを祈らずにはいられない▼米紙ニューヨーク・タイムズは16日付の1面で、苦闘する「無名の50人」を「最後の砦(とりで)」と称賛した。触発された米テレビは「フクシマ・フィフティ(福島の50人)」と盛んに流している。だが、彼らは英雄である前に人間なのだ▼現場の夫を案じる妻が日本のテレビに語っていた。冷静ながら不安を隠せぬ口調に胸が痛んだ。しかし、誰かが怪物を封じなくてはならないのも、一方の真実。身を切られるような背反に私たちは立ちすくむ▼今はただ、犠牲によって大勢が幸せになる賢治の物語とは、異なる結末を切に願う。必ずや家族のもとへ、全員無事に帰ってほしい。
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最後の段落が身に染みます。「」。これさりげなく名文じゃないですか?
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